7年ぶりになる村上春樹の書き下ろし長編小説。
第1部「顕れるイデア編」、第2部「第2部 遷ろうメタファー編」をまとめての読書感想記事です。
現在、最も注目を集めている小説といっても過言ではありませんが内容はいかに・・・。
※後半はネタバレを含みます。
あらすじ(内容紹介)
その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。
Amazonより引用
主人公は36歳の男性で名前は出てきません。
一人称、つまり大体においては主人公の視点で物語が進んでいきます。
あらすじにある通り、主人公が「ある理由」で5月から9カ月余を神奈川県小田原市郊外の山荘に住んでいた頃の奇妙な出来事を綴った物語・・・。
・・・うん、「奇妙」というしか表現ができないとりとめもない物語です。
しかし、主人公と主人公以外の独特な登場人物たち、そして本のタイトルにもなっている「イデア」と「メタファ」という非現実な存在。
これらが巧みに絡み合い、物語の随所に「謎」をちりばめ、先を読まずにはいられなくなる・・・。
そんな物語です。
新刊なのでネタばれを気を使い、フワッとした感想になってしまいましたが(^^;)
ネタバレを気にしない方は以降のネタバレをお読みください。
見どころ
騎士団長殺しとは・・・
まずはタイトルに触れていきます。
「騎士団長殺し」とはズバリ絵画のタイトルです。
本書の主人公は画家という設定です。生計を立てるために肖像画をメインに書いてましたが妻との離婚をきっかけに(理由は後述します)神奈川県小田原市郊外の山荘で暮らすことになります。
ここは友人である雨田政彦の父、雨田具彦が住んでいた家。
雨田具彦は90歳を超える高齢で現在、施設で療養中で現在、空き家だったので誰かに住んでもらいたいと思っていたところ、離婚し、住む家を探している主人公に住んでもらうのがちょうど良いとのことで政彦が勧めました。
雨田具彦は高名な日本画家で山荘はスタジオも兼ね備えてますので主人公にとっても良い話でした。
主人公は「ちょっとしたこと」をきっかけに屋根裏に置いてあった一つの絵画を発見します。その絵こそが騎士団長殺し__。
疑いの余地なく、雨田具彦その人の手になる作品だった。紛れもない彼のスタイルで、彼独自の手法を用いて描かれている。大胆な余白とダイナミックな構図。そこに描かれているのは飛鳥時代の男女だった。
(本文より1部抜粋)
絵の内容としては
[aside type=”boader”]
- 若い男と年老いた男が果し合いをしている
- 年老いた男が若い男に胸を「古代の剣」でさされており、大量の血が流されている
- 年老いた男は驚いた表情、若い男は冷ややかな目をしている
- 果し合いを見守っていた人物が3名描かれている
- 果し合いを見守っていたのは若い女性、召使のような男性
- そしてもう一人、画面の左下にとってつけたような目撃者がいる
[/aside]
本文を書き抜くとかなり長くなるので簡単に箇条書きにしました(^^;)
絵のタイトルが「騎士団長殺し」なので、きっと殺されている年老いた男が騎士団長なんでしょう。
でも、この絵は日本画です。そして描かれているのが飛鳥時代の男女・・・。
騎士団長は違和感がありますよね(^^;)
何故、この絵に「騎士団長殺し」と名付けれらたか・・・。
物語と読み進めるにつれ、次第にわかってきます。
そして「騎士団長」は本書でもう一つ役割を果たしています。
それは次にご説明します。
「イデア」と「メタファ」非現実な者たち
今日、短い午睡から目覚めたとき、〈顔のない男〉が目の前にいた。
(本文より抜粋)
こちらが物語の冒頭です。
いきなり〈顔がない男〉なる非現実的なものが登場します。
本書はこのような「非現実的」なものがたびたび物語に絡んできます。
タイトルにもなっている「イデア」や「メタファ」もその類。
■イデアについて
「 とても良い質問だぜ諸君。あたしとは何か?しかる今は騎士団長だ。騎士団長以外の何ものであらない。しかしもちろんそれは仮の姿だ」
(本文より抜粋)
あたしは霊なのか?いやいや、ちがうね、諸君。あたしは霊ではあらない。あたしはただのイデアだ。霊というのは神通自在のものであるが、あたしはそうじゃない。いろんな制限を受けている。
(本文より抜粋)
「イデアというのは要するに観念のことなんだ。でもすべての観念がイデアというわけじゃない。たとえば愛そのものはイデアではないかもしれない。しかし愛を成り立たせているものは間違いなくイデアだ。イデアなくして愛は存在しない。でも、そんな話をするときりがなくなる。そして正直言って、ぼくにも正確な定義みたいなものはわからない。」
(本文より抜粋)
上記がイデアについて言及している代表的な文言です。
なんかフワッとしてますね・・・(^^;)
イデアについては物語の半ば頃、「騎士団長」の姿を借りて登場します。
何故登場したか・・・。
それは主人公たちが「夜中になる鈴の音」が気になり近くにある祠を暴いてしまったからなのですが・・・。
詳細を説明すると長くなるので是非、本書をお読みください(^^;)
■メタファについて
起こったことを見届けて、記録するのが私の職務なのだ。だからそこで見届けていた。
(本文より抜粋)
そうです。ただのつつましい暗喩であります。ものとものをつなげるだけのものであります。
(本文より抜粋)
わたくしはただ、事象と表現の関連性の命ずるがままに動いているだけであります。波に揺られるつたないクラゲのようなものです。
(本文より抜粋)
二重メタファーは奥の暗闇に潜み、とびっきりやくざで危険な生き物です」
(本文より抜粋)
これまた何のことか・・・(^^;)
メタファは「暗喩」という意味ですが「起こったことを見届けて」「ものとものをつなげる」・・・と言葉の通りだと歴史の記録係のようなものでしょうか。
メタファは後半、物語の核心に迫ったころ「騎士団長殺し」の左下に描かれた目撃者のような男の姿で現れます。
そしてメタファに関しては「二重メタファ」なるものいるらしい・・・。
この辺りの非現実的な描写に関しては、作者の深い意図があるかと思いますが、すいません、少なくとも私自身は一回読んだくらいでは読み解くに至りませんでした(^^;)
まぁ、単に「非現実なもの」と割り切って読み進めても楽しめると思います。
屈折した恋愛模様・・・
何かと性描写が多い作品です(^^;)
しかもあまり普通じゃない・・・。
「不倫」だったり「行きずり」だったり、あまり褒めれたものではありません。
主人公は内向的で「モテるタイプ」ではない設定のようですが、主人公の特権か、十分モテてます(^^;)
このような描写も物語の深みが増すのであればよいですが、ちょっとばかり多い気もします(^^;)
個性的な登場人物が絡むエピソード
「非現実的」な登場人物は先に記載しましたが普通!?の登場人物もなかなか個性的ですね。
代表的なところでは・・・
[aside type=”boader”]
■ユズ
⇒主人公の奥さん。物語の序盤で主人公に離婚を言い渡す。
イケメンを前にすると理性が働かなくなるらしい(^^;)
■免色さん
⇒主人公が引っ越した山荘の近く住む男性。
50代で髪は白髪、容姿端麗。
主人公に多額の報酬を払い、肖像画を依頼する。
■雨田政彦
⇒主人公の旧友。山荘に住むことを主人公に提案した。
ユズと主人公の離婚について何かしら負い目があるらしい。
■雨田具彦
⇒政彦の父で著名な日本画家。
なぜ「騎士団長殺し」を描いたのか・・・
■白いフォレストの男
⇒主人公が離婚を言い渡された直後に旅に出た際に、遭遇した男性。
何かしら負のイメージが漂っている・・・
■秋川まりえ
⇒主人公が講師をしている絵画教室の生徒で近所に住んでいる。
免色と関係が!?
[/aside]
こんな感じです。
このような登場人物たちが主人公が「騎士団長殺し」を見つけたことをきっかけに不思議な出来事に巻き込まれていく訳ですが・・・。
そして各登場人物たちが抱えている謎が少しずつ解かってきます。
例えば・・・
「ユズはなぜ主人公に急に離婚を迫ったのか」
「免色さんはなぜ主人公に多額に報酬を払ってまで肖像画を依頼したのか」
「雨田政彦が主人公に対して感じている負い目とは」
「雨田具彦はなぜ騎士団長殺しを描いたのか」
「免色さんと秋川まりえの関係は」
このような謎が随所で散りばめられ、少しずつ解き明かされる・・・。
正直、解かってしまえばとりとめもないエピソードかもしれませんが、この謎をちりばめるタイミングが絶妙なので、どんどん読み進めることができるんでしょうね~(^^;)
まとめ
500頁以上が2冊・・・。
もっと読み終えるのに時間がかかるかと思いますが、読みやすかったということ、また読者が飽きないような構成になっているのでしょうか、結構物語に引き込まれてグイグイ読んでしまいました。
お陰で先週は寝不足気味でした(^^;)
読み終わってしまえば大きなオチもなくあっけない感もありましたが、読書中はしっかり楽しませていただきました(^^)
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