米澤 穂信著書のミステリー短編集。第27回山本周五郎賞受賞、2014年のミステリー年間ランキングで3冠に輝いた作品です。
掲載されている6つの話はすべて「自分の願い」を満たすことをテーマにしている本格ミステリー。
今回は『満願』の読書感想・あらすじです(^^)
※後半はネタバレを含みます。
あらすじ(内容紹介)
人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。人を殺め、静かに刑期を終えた 妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在 外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇 する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、 ミステリ短篇集の新たな傑作誕生!
(Amazonより引用)
人それぞれ、色々な願いや守りたいものがあると思います。
ささやかなものから強いものまで・・・。
そのためにする、努力や工夫は大変素晴らしいことですが本書『満願』の話は少々、度が過ぎています・・・。
人を陥れたり、時には殺めたり・・・。
異常とも思える人たちが中心のストーリーなので読後感は決して爽やかではありませんが(^^;)
ミステリー年間ランキングで3冠に輝いただけあり、ストーリーは素晴らしいです。
しかも短編集なので1編あたり短時間で読めるし、1冊の中に6つも秀逸なミステリーが掲載されているで読み応え十分です。
もう3年くらい前(2017年現在)の本ですが未読の方は是非、手にとってみてください(^^)
※この後はネタバレを含みます。
ネタバレ読書感想・あらすじ
夜警
新人警官の発砲殉死事件の真相は___。
夫婦喧嘩で殺傷沙汰になった現場に上官たちとともに駆け付けた新人警官の川藤浩志は、刃物を持ち出した夫の方に切りかかられたために拳銃を発砲し、死亡させます。
そして自らも刃物で切られ殉死してしまいます・・・。
本編は殉死した新人警官、川藤浩志の葬儀から始まります。
語り部となるのは川藤の上官だった巡査部長の柳岡。
ストーリーが始まった当初は殉死した川藤浩志の発砲は「適正であった」「勇気ある行動であった」というのが世間一般の評価。
しかし、柳岡はどうも違和感を覚えます。
「川藤という男は警官に向いていない」
柳岡はそう感じていました。
理由は「小心者」であるから。
身の保身のためにちょっとしたことでも嘘をつく___。
こんな性格では、いずれ周りの人間に迷惑がかかると思っていました。
葬儀後、遺族を訪れた柳岡は、川藤の兄の隆博に昔ながらの川藤浩志の人間性を聴いたり、事件当日のことを隆博に話すうちに驚愕の事実に辿り着きます。
「何故、川藤があの時、発砲したのか?」
偶然ではない、川藤の思惑に気づいたときが物語のクライマックスです。
最初にこのたびの「発砲事件」の説明があり、その後はつらつらと川藤浩志が如何に小心者であるかを物語るエピソードが続き、最後に事件の真相に繋げる見事な構成。
柳岡の「川藤は警察に向いていない」というのは見事当ってましたが、結局、川藤は死に、自身も事件の責任を取って警察を去ることに。
いきなり誰も救われない、切ない結末です(^^;)
死人宿
温泉の脱衣かごにあった遺書は誰のもの___。
昔の恋人、佐和子を探しにきた男性目線で物語が進みます。
男性は証券マンで私立大学の事務をやっていた恋人の佐和子によく職場の上司との人間関係で悩みを相談されていたのですが、「よくあること」と片付けてしまってました。
しばらくして佐和子は突然、失踪してしまいます。そして佐和子の上司の理不尽なパワハラが明るみに出てきます・・・。
佐和子が本当に悩んでいたのに一般論で片付けてしまった自身を大いに悔い、ずっと佐和子を探し続けて2年・・・。
やっと、とある宿で仲居をやっていると情報を得て佐和子に会いにいきます。
佐和子が仲居をしている宿はとても辺鄙なところにあり、普通に考えてたらお客などきそうにない宿です。
しかし、この宿には秘密がありました・・・。
自殺の名所なのです。
久しぶりにあった佐和子は意外にさっぱりしていて、あわよくばもう一回やり直せるかも・・・。
そんな淡い期待を抱いていた中、佐和子が男性の部屋を訪れ「お願いがある」と話を持ち掛けます。
温泉の脱衣かごに遺書が落ちていたとのこと。
誰の遺書かを突き止めて自殺を止めてほしいと___。
男性は以前、佐和子の悩みに取り合わなかったという経緯から「自分は試されているのでは?」と感じ、遺書を書いた本人を突き止めようとします。
宿泊しているのは自分以外に3名です。
ここからは謎を解明するべく、遺書の文面や落ちていた場所、他の宿泊客の部屋を訪れるなどミステリーっぽい展開になっていきます。
見事、遺書を書いた張本人を突き止めて自殺を思いとどまらせ、佐和子ともよりを戻せたら、読後感すっきりのハッピーエンドなんですが・・・。
真相は是非、本書をお読みくださいませ。
柘榴
美人姉妹は父と母のどちらを選ぶ?
小さな頃から容姿には自身があり、男女問わず人気があったさおり。
大学で知り合った「不思議な魅力」を持つ男性と知り合います。
その男性とは佐原成美。とりわけ美男子という訳ではなかったが心地よい声の響きや気を逸らせない話ぶりなどで妙に「異性」に人気ありました。
さおりは他の女性と争いながらも持前の美貌と知恵で佐原成美をものにします。
結婚する時は母は大賛成でしたが父は大反対。両極端の反応でしたが、父の反対を押し切り結婚し、二人の娘を授かります。
本来なら幸せのはずが、そこには2つの誤算が・・・。
一つは佐原成美は定職につかないろくでもない男であること。
二つめはさおり自身が驚くほど、二人の娘が愛おしいこと。
二つ目の誤算は別に不幸ことではないのですが(^^;)
二人を真摯に育てる中、「このままでは娘たちにとって良くない」と佐原成美との離婚を考えはじめます。
自分を律することのできない自堕落な夫を切り捨て、自分ひとりで娘を育てる決意をします。
しかし意外なことに佐原成美は定職もないくせに娘の親権を主張してきました。
普通に考えれば今まで苦労して育ててきた母親であるさおりに部があるはず。
裁判の行方はいかに・・・。
本編は母親のさおりと長女の夕子の目線でストーリが展開していきます。
序盤では母親のさおりが多少の過ちはあったけど「如何に苦労して子どもを育ててきたか」「如何に子どもたちを愛してきたか」を充分に訴え、中盤の夕子の目線に話が関わってきてから意外な方向に話が進んでいきます。
「柘榴」では本書『満願』で唯一、人が死ぬ話ではないのですが・・・。
ある意味、一番、ぞっとした話です(^^;)
万灯
私は裁かれている___。
出だしからこんな感じです(^^;)
この編の主人公、伊丹はどうやら仕事絡みのトラブルで2人、殺害したようです。
どのような経緯で殺人の罪を犯すことになったのか?
なぜ殺人がばれてしまったのか?
これらを今後のストーリーで明るみにしていく訳ですね。
伊丹は大学卒業後に商社に入社。
3年目に資源開発のプロジェクトに参加するためインドネシアの支社に派遣されます。
そしてここでの実績が買われ、開発室長としてバングラデッシュに派遣されます。
伊丹は使命感を持って携われる仕事、困難な仕事を好んでするタイプでビジネスマンとしては相当優秀な感じです。
バングラデッシュに行った後はインドネシアとは比べものにならないほど苦労します。
気候であったり、治安であったり、地元の対応であったり・・・。
配属される部下を次々に大けがさせたり、危険な目に合わせてしまったり・・・。
志半ばで去ってしまった部下のためにも何とかしてバングラデッシュでの事業を成功を!!
と企業ものの小説ならここからが巻き返しって感じですが、本編はミステリー小説(^^;)
この後、伊丹はどんどん周りが見えなくなっていきます。
本来、人の命ほど大切なものはないはずですが・・・。
周りが見えなくなるとそんなことも忘れてしまう訳ですね。
伊丹がプロジェクトを遂行するためにとった手段とは・・・。
続きは是非、本書をお読みください(^^)
関所
都市伝説の真相は___。
都市伝説のムックの記事を依頼されたライターの主人公は、オカルト専門にやっている先輩ライターに『死を呼ぶ峠』のネタを提供してもらいます。
『死を呼ぶ峠』とは伊豆半島の南部にある桂谷峠こと。
年々交通量が減っているのですが伊豆半島の先端にある豆南町に行くには必ず通らなくてはいけない道です。
この道で近年、奇妙な死亡事故が多発しています。
ドライバーたちは峠道の崖から転落して死んでいるのです。何の変哲もない道なのに・・・。
多発していると言っても4年で4件という何とも微妙な数ですが(^^;)
都市伝説にするには少し弱い気がしますね・・・。
しかし主人公は先輩ライターの一言で取材を決意します。
「俺の直感なんだが・・・。そいつは本物だって気がするんだ。」
先輩ライターはこの案件を取り上げるならよほど気を付けるようにと主人公に忠告します。
主人公はこんな迷信じみたことを言う先輩を笑い飛ばしたかったようです。
桂谷峠に出向き、道中にあるドライブインの店の店主であるおばあさんに自らを記者と名乗り、取材を始めます。
おばあさん曰く、豆南町に行くにはこの桂谷峠を通る必要があり、この道を通た人のほとんどがこの店を利用するらしいです。
死亡事故のことも記憶しており、主人公の取材に応じていきます。
この死亡事故は都市伝説なのかそれとも・・・。
取材が進むに連れ、真相が明らかにされていきます。
満願
静かに刑期を終えた 妻の願いとは・・・
弁護士の藤井のもとに、藤井が学生時代に下宿で世話になった畳屋の妻、鵜川妙子が出所の挨拶にくるまでの1時間程度の中の話。
鵜川妙子は5年前に殺人を犯し刑に服してました。
裁判の際に弁護人となって親身になっていたのが藤井という訳ですね。
藤井は学生時代に妙子の主人の重治が営む、畳屋の2階で下宿をしていました。
重治にはあまり良く思われていない感じの藤井でしたが、妙子には何かと世話となり、恩義と淡い恋心を抱いていたようです。
妙子のサポートもあり、晴れて弁護士なったのですが、その妙子が殺人を犯した時はさぞ驚いたことでしょう。
殺害されたのは貸金業を営む、矢場英司。
藤井が下宿していたころから畳屋の経営があまりよくなかったようですから、借金は重治がしたのでしょう。
藤井は借金を理由に矢場に関係を迫られたうえでの正当防衛と想定し、妙子を弁護しますが、重治の病死をきっかけに妙子は控訴を取り下げてしまい、結局、有罪となってしまいました。
刑期を終えた妙子がくるまでの間、藤井はずっと事件のことを考えてました。
何故、妙子は控訴を取り下げたのか?
そもそも殺人の動機は?
真相が明るみになるに連れ、妙子の真の姿が見えてきます・・・。
まとめ
6編とも読み応えがありましたが個人的に好きなのは『死人宿』と『満願』でしょうか。
『死人宿』はもう少しでハッピーエンドのとこだったんですけどね~(^^;)
『満願』は昔に淡い恋心を抱いていた人物の真の姿が浮き彫りになってくる様子が見事ですね。
本書は短編集でしたが、米澤 穂信は長編ミステリー小説も素晴らしい作品があります。
こちらもおすすめです。
『王とサーカス』は同じく米澤さんの著書『さよなら妖精』の続編的な位置づけでもあります。
(ストーリーは独立していますが登場人物が一部かぶります)
また『古典部シリーズ』は現在6作品、発行されている推理小説です。
私はまだ『王とサーカス』と『満願』しか読んだことがありませんが、他の作品も是非、読んでみたいと思います(^^)
以上、「満願」米澤 穂信の極上短編ミステリー集【読書感想・あらすじ】でした。