人気作家、池井戸潤の新刊。約10年前に『問題小説』に連載されていましたが、ずっと書籍化されずいて「幻の長篇」と言われた本書。
『アキラとあきら』のあらすじ・読書感想です。読後感が清々しい硬派な内容です(^^)
※後半ネタバレを含みます。
あらすじ(内容紹介)
零細工場の息子・山崎瑛(あきら)と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬(かいどうあきら)。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった――。
ベストセラー作家・池井戸潤による幻の青春巨篇がいきなり文庫で登場!!(Amazonより引用)
主人公は山崎瑛(あきら)と階堂彬(かいどうあきら)。
タイトルのままですね(^^;)
真逆の環境で生まれ育ち、それぞれの立場で苦労や葛藤を感じつつも逞しく育っていく・・・。
そんな少年時代から就職するまでのエピソードを丁寧に描写してしっかりキャラを立たせ、中盤以降は著者が得意の「銀行」を舞台に二人のアキラを中心としたドラマにつなげていく見事な構成。
銀行が舞台なのでお金絡みのドラマが多いですね。貧乏で毎月の支払に苦労している人、金持ちでも資金繰りを誤り苦悩する人・・・。
もと銀行員の著者だけあって銀行と取引先の大小様々な企業との駆け引きはリアルに感じます。
青春巨篇と銘打たれてますが内容は二人のあきらの少年時代から30代くらいまでの半生を描いたものとなってますで「青春小説」と「企業小説」が合わさった感じです。
これだけの長い期間の物語なのに恋愛要素は皆無に近いです(^^;)
零細工場の方で育ったあきらの方の高校時代に淡いエピソードがあるくらいです。きっとたくさんの登場人物が巧みに関わり合う本書なので恋愛要素など入れる余地がなかったのでしょう。
読者層は幅は広いと思います。主人公の年齢設定からすると20~30代のこれから就職する人や就職したての若手の方が共感できるエピソードもありますし、時代背景的には高度成長期末期からバブル、そしてバブル崩壊あたりの内容なので40~50代の人も懐かしい感じがすると思います。
著作おなじみの「銀行もの」ではありますが半沢シリーズとはまた違った面白さがありますのでおススメできる一冊です(^^)
※この後はネタバレを含みます。
ネタバレあらすじと感想
真逆の環境で育った二人
物語の前半は二人の少年時代(小学校~高校)のエピソードが交互に進んでいきます。この頃のエピソードでそれぞれの立場で銀行との関わり合いを体験しており、後に銀行を舞台に活躍する伏線にもなっています。
■山崎瑛(あきら)
零細工場の息子の方です。まずは子どもの頃に父が経営する工場が倒産するという災難を経験しています。その時の銀行員の冷たい対応は幼い瑛には冷酷に映ったことでしょう。この時点では後に銀行員を目指すことになるとは全くわかりません(^^;)
父が破産手続きをし、再就職をする中高生の頃にはやっと普通の学生らしい青春を送れるようになり、転校してきた北村亜衣との本書唯一!?淡いエピソードもあったります。
しかし、大学進学を考えなければいけない頃、会社で現場責任者の立場だった父が専務の犯したミスの責任を負わなくてはならない事態に・・・。
後、もう少しでクビになるところを助けてくれたのは銀行でした。銀行の担当である工藤が夜な夜な瑛の家に押しかけて父と二人で書類を作成した融資の稟議が通ったのです。
工藤は偶然、父のおかれている状況のせいで大学進学を諦めている瑛の存在を知り、自身の過去の辛い経験から瑛を何とか大学に進学してもらおうと奮闘した結果でした。
銀行の対応により、人の人生が大きく変わることがある___。
子どもの頃にこんな経験をした瑛なので後に銀行を目指すことになります。
■階堂彬
大手海運会社の御曹司の方です。じつは瑛とは子どもの頃にすれ違い程度ですが出会っていたります(^^;)
御曹司なので何の苦労もないと思いきや・・・。結構大変そうな様子。
まず父親の兄弟の仲が悪い。3人兄弟(一磨、晋、崇)なのですが長男の彬の父、一磨は二人の弟に敵対心むき出しにされている感じです(^^;)
祖父が絶大な権力を持っているので健在の間は良いのですが、何やら後々、揉めそうな予感です。
それを察知してか祖父が現在は一磨が社長をやっている大手海運会社、東海郵船の商事部門と観光部門を切り離し、独立した会社としてそれぞれ晋と崇に会社を任せることとしました。
彬は会社のことで揉めている父兄弟たちを子どもの頃から見ており、嫌気がさしてました。しかも自身の弟である龍馬ともそんなに仲が良くない感じ。お金持ちの家に生まれると後継問題とかあるので兄弟同士は仲は悪くなるものなのでしょうか・・・。
そして絶大な影響力をもっている祖父が亡くなると案の定、遺産相続で父の兄弟たちが揉めます。自分たちの任された会社の経営が思わしくないので一磨に無理難題を言い、不利な条件を飲ませます。堅実な経営をしていた一磨も資金繰り苦しくなります。
そんな父たちを見て育ったあきらは大手企業といえども資金調達についての重要さを胸に刻まれます。
彬は親族とのしがらみに嫌気がさしていて家業を継ぐつもりはなく、大学の就職活動の前に大手企業のやり手社長である父を相手に堂々と経営方針に対する提案を行った安堂に興味を持ち、銀行員の道に進みます。
銀行で二人の「あきら」が出会う
舞台は産業中央銀行。新人研修の頃から二人の能力は抜きん出ており、瞬く間に評判になります。
しかし、新人研修で顔を合わせたのもつかの間、二人は別々に配属されるのでその後も暫くは交互にストーリーが展開していくことになります。行員として夫々のやり方で非凡な才能を魅せつける二人。この辺りのエピソードは元行員の池井戸潤さんだけあってきめ細かな描写でリアリティがあります。
二人が再び顔を合わせることになるのは彬が家庭の事情により家業の東海郵船に戻り経営者となってからです。二人の叔父のお陰で一族が倒産の大ピンチに陥ります。どこの銀行も到底融資してくれないような状況で如何にピンチを乗り切るか・・・。
経営者になった彬と東海郵船を担当することになった行員、瑛が中心となり大ピンチに挑みます!
以降は是非本書を手に取り確かめてください(^^)
多彩なキャラが奥深くストーリーに絡む
約20年の期間を描いている小説なので登場人物が多彩です。
瑛の学生時代の友人たち
瑛の学生時代の友人、ガシャポンこと三原比呂志。子どもの頃はガキ大将で夜逃げで転校してきた瑛をからかって喧嘩になったのをきっかけに親友同士となります。高校までは仲が良かったようですが、その後は登場してこなかったので「瑛の学生時代の友人」程度の設定かと思ってましたが物語の後半、彬が経営者となった東海郵船を救うべく奮闘している二人のあきらの協力な助っ人として登場します。
学生時代のマドンナ役として登場した北村亜衣。スーパーマーケットを展開する会社に勤める父を持ちます。当時(1970年後半頃)のスーパーマーケットは商店街にとって脅威の存在だったらしく、商店街で店を営んでいる子どもたちが多い地域の学校では敵視されてしまいがちで浮いた存在になってしまってました。浮いていた亜衣を瑛が何かと気に掛けるという本書の中で唯一の恋愛エピソードですが同時に瑛が「スーパーマーケット対商店街」の構図に興味を持ち亜衣の父に会いに行くことになります。
そこで初めて父が登場しますが、実はこの後のストーリーにおいて娘より多く登場します・・・。
亜衣は父のスーパーが買収されて転校してからはほとんどストーリーには絡んでこなかったのですが最後の最後に少しだけ登場します(^^;)
悩める叔父たち
彬の二人の叔父たちは物語の冒頭から登場し、東海郵船の商事部門と観光部門を夫々まかされますが、経営センスがなく、資金繰りでしばしば問題を起こします。祖父の遺産相続に一磨に不条理な条件を飲ませたり、亡き一磨の後を継いだ瑛の弟、龍馬を騙して連帯保証人にさせるなどあくどいやり方でピンチを切り抜けますが、最終的には東海郵船をも巻き込むほどの経営難に陥ります。
典型的なバブルで調子に乗る経営者たちですが、根底には兄への嫉妬、大企業を経営する一族に生まれたしがらみなどがあり、なかなか根深い問題です。
ストーリーが進むに連れ、成長するあきら達と人を巻き込み、ずる賢い人たちに騙されながらどんどん問題を大きくする叔父たちの構図は本書の根幹かと思います。
様々な顔を持つ行員
倒産間際の企業に対しても何とか融資をしたいと奮闘する人、経営不振と判断するや否や即座に融資を打ち切ろうとする人、取引先に調子の良いこと言って必要以上にお金を融資しようとする人、融資の提案の際に取引先にかなり踏み込んだんだ大胆なアイデアを出す人___。
行員出身の著者だけに色んなタイプの行員を登場させ、物語を彩ってます。
銀行は身近な存在ではありますが本書に登場してくるような行員などは実際は経営者や経理畑の人しか縁がないと思います。しがないサラリーマンの私にとってはウン百万の借金でも怖いのに百億単位のお金を動かすのですからね~。エリートしか入れないわけです(^^;)
まとめ
企業もの小説が好きで池井戸さんの著書は読んだことがありましたが・・・。
その中でも「銀行もの」は著者の得意中の得意分野。
王道のストーリではありますが安定した面白さがあると感じました。
本来は若者向けなのかも知れません。しかし本書は10年ほど前に連載されていたもので、時代背景はバブル前後と40代の私にとって懐かしい感もありました。
幅広い年齢におすすめできる一冊です。