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「鹿の王」のあらすじ・読書感想(ネタバレあり)【2021年にアニメで映画化も!】

「鹿の王」は医療をテーマにしたファンタジー小説で2015年の本屋大賞、第四回日本医療小説大賞を受賞した人気作品。
2021年にはアニメでの映画化も決まってます。

上橋 菜穂子さんのファンタジー小説は大人でも読み応え充分の作品が多いです。
『精霊の守り人』シリーズや『獣の奏者』など…。

そして今回、ご紹介する『鹿の王』も然り。
世界観がしっかりしていて安易に剣や魔法では解決されない骨太の内容。
しかも取り扱うテーマが「医療」ですからむしろ大人向けのファンタジー小説です!

目次

鹿の王のあらすじ(内容紹介)

カズロー

骨太の医療ファンタジー小説!

強大な帝国・東乎瑠(ツオル)から故郷を守るため、死兵の役目を引き受けた戦士団“独角”。妻と子を病で失い絶望の底にあったヴァンはその頭として戦うが、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、不気味な犬の群れが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生。生き延びたヴァンは、同じく病から逃れた幼子にユナと名前を付けて育てるが!? たったふたりだけ生き残った父と子が、未曾有の危機に立ち向かう。壮大な冒険が、いまはじまる――!

謎の病で全滅した岩塩鉱を訪れた若き天才医術師ホッサル。遺体の状況から、二百五十年前に自らの故国を滅ぼした伝説の疫病“黒狼熱”であることに気づく。征服民には致命的なのに、先住民であるアカファの民は罹らぬ、この謎の病は、神が侵略者に下した天罰だという噂が流れ始める。古き疫病は、何故蘇ったのか―。治療法が見つからぬ中、ホッサルは黒狼熱に罹りながらも生き残った囚人がいると知り…!?

何者かに攫われたユナを追い、“火馬の民”の集落へ辿り着いたヴァン。彼らは帝国・東乎瑠の侵攻によって故郷を追われ、強い哀しみと怒りを抱えていた。族長のオーファンから岩塩鉱を襲った犬の秘密と、自身の身体に起こった異変の真相を明かされ、戸惑うヴァンだが…!?一方、黒狼熱の治療法をもとめ、医術師ホッサルは一人の男の行方を追っていた。病に罹る者と罹らない者、その違いは本当に神の意思なのか―。

岩塩鉱を生き残った男・ヴァンと、ついに対面したホッサル。人はなぜ病み、なぜ治る者と治らぬ者がいるのか―投げかけられた問いに答えようとする中で、ホッサルは黒狼熱の秘密に気づく。その頃仲間を失った“火馬の民”のオーファンは、故郷をとり戻すべく最後の勝負を仕掛けていた。病む者の哀しみを見過ごせなかったヴァンが、愛する者たちが生きる世界のために下した決断とは―!?上橋菜穂子の傑作長編、堂々完結!

Amazonより引用

鹿の王の舞台は?

物語の舞台は東乎瑠(つおる)帝国、アカファ(旧アカファ王国)でアカファは東乎瑠(つおる)帝国の支配を受けている状況です。
しかしながらアカファ王は東乎瑠(つおる)帝国に上手く取り入っており、支配されつつもそこまで酷い仕打ちは受けていない様子。
勿論、アカファ民の中には東乎瑠(つおる)帝国の支配を疎んでいる人はいます。

またアカファ王国の誕生以前に古オタワル帝国という数千年以上にわたり栄え、医術や土木技術、工芸にも優れた国家がありました。

しかし250年前に「黒狼熱」という疫病が流行り、衰退していき、遂には国が滅びてしまいます。

国を捨て生き残ったオタワル人たちは険しい山に囲まれた盆地に「オタワル聖領」を築きます。
オタワル人は国が無くなった今でも医術をはじめとする様々な技術力が東乎瑠帝国、アカファで重宝されています。

この各国の政治的関わりや各国の住人たちの生活環境なども物語に大きく関与していきます。
この辺りが本書『鹿の王』の魅力の一つですね。

黒狼熱は何故?

物語の冒頭で奴隷として捕らえられていた主人公ヴァンが山犬に襲われ、何かしらの病気を患った描写があります。
そしてヴァンが捕らえられていた岩塩鉱ではヴァンと幼子のユナ以外は謎の病気で死んでしまいます…。

ヴァンは幼子のユナを連れて岩塩鉱を脱出します。

後日、謎の病で全滅した岩塩鉱を訪れたもう一人の主人公、若き天才医術師ホッサルは調査の結果、謎の病気をかつて自身の祖国を滅ぼした「黒狼熱」ではないかと考え始めます。

本書『鹿の王』は「黒狼熱」という疫病をテーマに…。

「治療方法はあるのか?」
「山犬に噛まれても発症する人としない人の差は何なのか?」
「何故、250年前の疫病が今となって流行ったのか?」
「誰かが意図して流行らせているのか?その理由は何か?」


ヴァンの視点とホッサルの視点で物語が進み、謎がどんどん解明されていき、読み進めるが楽しみで止まらなくなります!

『鹿の王』というタイトルの意味も物語の終盤でやっとわかります。
読む前にタイトルだけ見た印象では鹿の王の力を借りて国の窮地を救う物語とか安易な想像をしてましたが全く違いました(^^;)

ファンタジー小説初の本屋大賞受賞はダテではありません!
大人にも読んでいただきたいファンタジー小説です。

※ここから先はネタバレを含みます。

鹿の王の見どころ(ネタバレ読書感想・あらすじ)

カズロー

ここからはネタバレを含む「鹿の王」のみどころや感想をご紹介します

黒狼熱の真相に近づくに連れて各国・地域の思惑が浮き彫りに…

ホッサルは各地に赴き、調査を行って黒狼熱の治療法を探ります。
そして黒狼熱の流行った原因も次第に究明されていきます。

治療法については黒狼熱を患うと致死してしまう人とヴァンもそうでしたが生き延びる人との違いを調査することが重要でした。
黒狼熱は当初アカファ民には罹らず、征服民の立場にあたる東乎瑠民のみに罹る疫病という噂がありました。

しかし、確かにその傾向はあるもののアカファ民にも罹る人が出てきました。
ホッサルは黒狼熱に罹る、罹らないは食文化に影響されるということが分かってきます。

支配側の東乎瑠民は本来、口にすることがない食文化がアカファにありました。
先住民のアカファ民は普段、食事で口にしているものでも東乎瑠民は絶対に口にしないものがある訳です。

しかし、東乎瑠帝国の支配も長いので混血の人もいますし、互いの文化に馴染んでしまう人もいます。
ですので「絶対にアカファ民は罹らない病気ではなかった」のです。

ホッサルは本書『鹿の王』のストーリーが進むにつれて少しずつ黒狼熱の治療法に近づいていきます。
ファンタジー小説でありながら医療をテーマに真摯に向き合う物語は本書『鹿の王』のメインテーマでもあり、読み応え充分です。

黒狼熱が再び流行った原因は…。

やはり東乎瑠帝国の支配は無関係ではありませんでした。
そして虐げられた先住民の恨みというのが根底にあります。
そしてその恨みをあわよくば利用したい国家の思惑も絡み、終盤はスケールが大きい展開になります。

シンプルに説明するとアカファ民には罹らない前提で村レベルで起こしたクーデターではありますが、黒幕がいなくもなかった…。
って感じでしょうか(^^;)

真相は是非、ご一読ください。

医療についての見解の違い

オタワル人の医術はこの世界では非常に高度で発達しています。
例えるなら現代医療ですね。

支配国である東乎瑠帝国の王にもオタワル医術は非常に重宝されているのでホッサルは身分の高い位にいます。
しかし、反面、東乎瑠帝国では清心教医術が浸透していました。

清心教医術というのは病気になったとしても「神の定め」とし、治療を良しとしない人達です。
治療をして下手に延命するより、心安らかに天命を全うしていただきたいと考えてます。
医者というより神父さんですね。

東乎瑠帝国は今でも宮廷祭司医がいて清心教医術が根強いのです。

このような医療に対する考え方の違いの盛り込みも物語に深みを増し、物語の真相にも関わってきます。

ヴァンの生き様と鹿の王とは!?

奴隷として捕らえられていた「独角」の頭だったヴァン。
「独角」とは飛鹿にまたがり、神出鬼没の戦術で命知らずな戦いを信条とする集団です。

捕らえられていた岩塩鉱で発生した「謎の病(黒狼熱)」からも生き延びました。

本書『鹿の王』を読む前は謎の病を克服したヴァンはさらなる超人的な力を得て、自分を奴隷にした征服民に復讐する物語と思っていました(^^;)

医療がテーマでも戦闘シーンはたびたびありますし、ヴァンは独角の頭だっただけあり、確かに強いです。
しかし、本書『鹿の王』の見どころはヴァンの戦闘の強さではなく「心情の変化」だと思います。

ヴァンが頭だった「独角」という戦闘集団は死に場所を見つけたい兵士の集まりでした。
国のために命を犠牲にするほど志が高いのではなく、死にたいので「死に場所」を提供してくれる国と利害が一致するみたいな感じです。

ヴァンも妻子に先立たれているようで生きる希望を無くしてました。
そんなヴァンが岩塩鉱で出会ったのが幼子のユナ。

ヴァンとユナは「謎の病(黒狼熱)」から生還しましたが、奇妙な体質になります。
普段でもユナは視覚、ヴァンは嗅覚に変化が見られました。

またヴァンは「裏返し」という自分があたかも山犬になったような感覚を覚えることが出てきます。
自分の身体に何か起こったかを知りたくなります。

ユナと旅を続けているうちに、そして自身が罹った「謎の病(黒狼熱)」と向き合っていくうちに死にたがっていたヴァンにも心情の変化が見えてきます。

『鹿の王』とは昔、ヴァンが父から聞いた話で味方が窮地の時に自らを犠牲にして守れる鹿のことを指すようです。
総じて年老いた鹿に多いそうです。

ヴァンは「独角」の頃は死にたい気持ちで戦っていました。
しかし物語の終盤では「大切なものを守るため」に戦うという心境に至ります。

その際に思い出したのが昔に父から聞いた『鹿の王』の話だったという訳です。

ヴァンのその後は…

ヴァンは最後、裏返しを使い山犬たちと共鳴します。
犬たちの一本の道をひたすら走っていきます…。

本書『鹿の王』のクライマックスでもヴァンがその後、どうなったかのエピソードは描かれていません。
ユナたちがヴァンを探しに行く描写がありますが…。
できればヴァンには無事でいて欲しく、ユナにも再び会えていれば良いな~と思います。

2021年にアニメで映画化も決定

『鹿の王』は2021年にアニメで映画化が決定しています。
大ヒット映画『君の名は。』の作画監督を務めた安藤雅司が初監督を務め、脚本も『ハイキュー!!』シリーズの岸本卓なので期待が持てます!

当初は2020年9月が公開予定日でしたが延期になったようです。
正式な公開日はまだ発表されていないようですが待ち遠しですね!

鹿の王、特設サイトをチェックしておきましょう。

鹿の王、特設サイトはこちら

まとめ

今回は剣や魔法、戦記ものとは一線を画した大人も楽しめる、医療ファンタジー小説「鹿の角」をご紹介いたしました。

医療とファンタジーの組み合わせ、最初はどうかと思いましたが…。
大変、興味深く読むことができましたのでおすすめできます!

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