2016年本屋大賞 大賞受賞作品を読んでみました。
内容紹介(あらすじ)
ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。 (アマゾンより引用)
至極、当たり前の成長物語
本書は主人公の外山の成長物語に他ならないのですが、大きな成功をおさめたり、とんでもない悲劇に見舞われるような話ではありません。
調律師でなくても社会人になって間もない青年であれば至極、当然のようにぶち当たる壁、地道に頑張っていれば辿り着く成長・・・。
その程度のことを淡々と書いています。
「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)
上記の台詞が物語る通り派手な演出は無く、地道にコツコツと前に進んでいく大切さを再認識させてくれる内容になってます。
ハラハラ・ドキドキの物語を期待した人には物足りない内容かもしれません。
しかし、この「当たり前の成長物語」故にすっと物語に入っていける人もいるでしょうし、読んで力を貰える人もいるでしょう。
対象としてはこれから就職を控える学生、社会人、3年目くらいまでの人は共感できる人が多いのではないでしょうか。
主人公を支える調律師達
私の年齢になると主人公より脇を固める先輩の調律師達に感情移入してしまいます。
主人公にとって兄貴分的存在の柳さん、打算的で嫌味ったらしい秋野さん。
そして主人公に調律師になるキッカケをつくった板鳥さん・・・。
この先輩たちは個性こそ様々ですがしっかりとした仕事に対するこだわりを持っており、腕も確かです。
嫌味ったらしく描かれている秋野さんでさえ、主人公の成長を支え、導く存在として重要な役割を担ってます。
私の職場にも最近、入った20代の子がいますが、色々、考えさせられます。
「自分は若い子達にどのように映ってるんだろう?」
「自分の仕事っぷりは若い子達に見習うべきものになってるだろうか?」
「自分は若い子達の成長を支えれてるだろうか?」・・・。
つい自身の仕事と置き換えてしまいました(^^;)
音を活字で表現する繊細な描写とやさしい世界観
物語としてはインパクトがあるとは言いかねる本書ですが著者独特の繊細な描写と世界観が評判の一因となっているのでしょう。
本書は調律師を題材にしているので当然、「音」の表現が重要なファクターになってます。著者はこの「音」を独特の繊細な表現で描写し、さらにそれぞれの調律師の「音」を見事に使い分けてるところがさすがです。
また賛否が分かれるところですが悪い人・ずるい人のような主人公を貶めようとする人物は登場しません。故に安心してコツコツと努力し、少しずつ成長していく主人公を見守りながら読み進めていくことができます。
リアルでギスギスした人間関係にストレスが溜まっている人は癒しになるのではないでしょうか。
まとめ
私はこの手のハートフルな物語は嫌いではないので楽しく読ませていただきました。
強烈な個性を持つ登場人物も出てこず、仕事のライバルがいて互いにしのぎを削ることもなく、ヒロインがいて大恋愛することもない・・・。
しかし、しっかりと物語に引き込んでくれる・・・。
このあたりが日ごろ、多くの本に触れる書店員さんの目に留まった要因ではないかと思いました。
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